【獣医師コラム File:12】犬が食べすぎるとどうなる?食べすぎのサイン・対処法・満足できないときの方法まとめ
佐野先生コラム1

佐野先生のコラム、お友達の間でも評判です。前回の「犬がご飯を食べない」の話をしていたら、愛犬のごはんにはそれぞれのお悩みがあるようで…

佐野先生コラム2

ワンちゃんの食事や生活について愛犬家のみなさんと一緒に考えるこのコラム。皆様からご好評の声をいただき本当に嬉しく思います。

「食事」というのは全ての動物が生きていく上でとても重要な項目です。食べないことはもちろん大きな問題ですし、食べすぎることも大きな問題を示す重要なサインである可能性もあります。
 
今回はワンちゃんの「食べすぎ」問題について考えてみたいと思います。
 

犬は満腹感がないから食べすぎるの?

佐野先生コラム2

そもそも、犬が食べすぎること、問題なのでしょうか??

多くの動物には、満腹中枢(まんぷくちゅうすう)と呼ばれる食欲を調節する部分が脳の視床下部(ししょうかぶ)という部分に存在しています。
食べ物を食べたりして血糖値が上昇すると、それをこの部分で感知して「お腹が満たされた!」となり、食べたいという意欲、つまり食欲が低下して、摂食という行動が終わります。
 

佐野先生コラム1

満腹中枢のしくみは、私もダイエットを頑張っていたときによく聞きました!人間も犬も同じなんですね。

この他、消化管の運動に影響を与える様々なホルモン分泌の影響などについても研究が進んではいるのですが、基本的には
 

消化管の運動に影響を与える様々なホルモン分泌の影響
食べ物を食べる
 ↓
血糖値が上がる / 消化管が膨らむ
 ↓
満腹中枢が刺激される
 ↓
「お腹いっぱい」と”感じる”=満腹感
 ↓
採食が停止する=ご馳走様
 
となります。

 

佐野先生コラム1

体のセンサーが反応して、食べる量をコントロールするようになってるんですね。

ええ。食べすぎる原因の根本は「満腹中枢が刺激されない」こと、すなわち「満腹感を感じないこと」なのですが、その理由には人と同じように

  • お腹が空いている空いていないは関係なく、ものが食べたい
  • 病気で血糖値が常に高い状態で満腹中枢が刺激されない
  • 食事により血糖値が上昇しない
  • 消化管の運動が激しすぎて、食べ物により膨張されない

など多くのものがあります。
 

佐野先生コラム2

つまり、食べたがる=お腹が空いている
という単純なものではないことを理解しておいてくださいね。

犬が食べすぎるとどうなる?

佐野先生コラム1

犬が食べものを欲しがっているからといって、空腹ってことばかりではないのですね。じゃあ、欲しがるままにあげてしまうと、どういう問題があるのですか?

健康な犬が、規定の量より多く食べれば「食べすぎ」になりますし、それによって引き起こされる障害はただ一つ!そうです。太っちゃうんです。
 

佐野先生コラム2

マシュマロなんたら、や、ぽっちゃりなんたら、のような言葉で「少し太めが可愛い」というのはよく分かるのですが、肥満はやはり万病の元であることは、人と同じです。

また、慌てて丸呑みするような癖がある場合や、本来必要な量を超えて非常に多くの量を食べてしまい、ワンちゃん自身の消化管の処理能力を超えてしまうことも。すると食べ物がいつまでも消化されず、胃や腸の中に残ってしまい、消化・吸収不良を起こしてしまいます。
 
さらに!そのような状態での運動により消化管の閉塞(詰まる)、捻転(ねじれる)などの問題が生じてしまうこともあります。
 

佐野先生コラム1

胃捻転や腸閉塞など、命に関わる病気だと聞いたことがあります。それは絶対に避けなければ!

佐野先生コラム2

やはり、食べすぎはよくないですね……

犬の食べすぎの判断基準

佐野先生コラム1

でも先生、食べすぎかどうか、どうやって判断すればいいんでしょう?

どんな場合でも、規定量より多く摂取する場合には「食べすぎ」となります。
 
規定量というのは、ワンちゃんの場合、体重から計算されるカロリーと、与えているフードの単位gあたりのカロリーから、与える量(g)を「正確に測って」与えることが大切です(コラム第8回も見てくださいね)。
 

佐野先生コラム2

ドッグフードは、それだけ与えていれば必要栄養素が全て摂取できる「総合栄養食」ですから、それ以上 / それ以下の量を与える必要は原則ありません!

「ちょっと少ないな」「これだけだと可哀想」という「感覚」は人間の想いなだけであって、ワンちゃんは与えられた量のもの「だけ」を常に与えられていれば、それ以上を欲しがることも、それ以外を欲しがることもありません。

  • 今日は特別
  • お母さんには内緒で(世のお父さんに多い行動です!)
  • フードだけだと可哀想で……

というのは、人間側の勝手な感情であり、その結果、愛犬が体調を崩したり、太ってしまったりしてダイエットや食事制限をしたりするのは、逆に可哀想なことになりませんか?
 

佐野先生コラム1

ああっ、その視点はなかったです…!よく考えたら、飼い主が嫌われたくないばかりにやってしまうのかも。

佐野先生コラム2

そう!今度はワンちゃんの気持ちになって考えるといいかもしれませんね。

だって、ワンちゃんは「太っちゃって健康診断の血液検査で引っかかって、長生きのために、ダイエットしなきゃ」なんて絶対に思わないんです。
昨日まで美味しいオヤツをたくさんもらえていたのに、なんで今日はもらえないの??なんで??なんで??なんで???としか思いませんから……ね。
 

佐野先生コラム1

はい!愛犬のためを一番に考えて、食べすぎないように注意します!

犬の食べすぎを防ぐには

佐野先生コラム2

飼い主さんから見て、ワンちゃんが「食べすぎている」と感じる場合には、まずはしっかりとカロリー計算をして、必要量だけを与えるようにすることがとても大切ですよ。

また、先ほど説明しました「満腹中枢」は、咀嚼による唾液分泌により満たされ方が変わってくるんです(これは人と同じですね)。ですので、よく噛んで食べられるような工夫をしてあげることも、とても効果があります。
 

佐野先生コラム1

なるほど~。例えばどんな方法がありますか?

少しずつしか口にできないようになっている食器などもありますし、少しお湯などでふやかしてボリュームを増すというのもいい方法です。
カロリーの少ないガムのようなものを噛ませて、噛ませて、噛ませて……ストレスを減らし満腹中枢を刺激するというのもいい方法ですね。
 

佐野先生コラム1

これならすぐにできそうです! あと、ご褒美のおやつなんかもあまりよくないのでしょうか?

躾などの訓練の過程でフードやおやつを使うこともあるかもしれませんが、最終的には飼い主様の褒め言葉、飼い主様とのスキンシップがおやつの代わりになるような関係性を築くことがとっても重要になりますね。
 
これも先に述べましたが、食べすぎは単なるお腹が空いているだけではないことも多く存在します。
 
栄養管理、食事管理というとなんとなく飼い主さん自身の責任で・・・と思われる方が多いのですが、食事管理も重要な獣医療行為であると私自身は考えています。
 

佐野先生コラム2

過食症・拒食症などが人の場合は診療の対象となるように、ワンちゃんの食事の不安についても、遠慮せず動物病院でお尋ねください。
獣医さんにはその子にとって適切な方法を模索していただき、飼い主様と一緒にいい方法での管理を目指していただきたいと思います。

繰り返しになりますが、食事は動物が生きていく上で非常に大切な要素の一つです。不安になること、心配なことについて正しい情報を得て、正しい方法での対処ができるように、かかりつけの先生にぜひ、相談してみてくださいね。
 

佐野先生コラム1

はい!やっぱりなんでも獣医さんに相談するのが安心ですね!今日も大切なことを教えてくださり、ありがとうございました。お友達にもさっそく伝えますね。

犬が食べすぎる場合のまとめ

佐野先生コラム1

犬が食べすぎると、時には大きな病気を引き起こす危険もあるということがわかりました。愛犬の喜ぶ姿を見たくて、ついつい欲しがるままにあげてしまうと、結局犬にとってかわいそうなことになるのですね。
 
ナチュロルは不要なかさ増しがない分1回の規定量が少ないので、お湯でふやかしたり、食べすぎ防止の食器などで工夫して、ココロもカラダも満足させてあげたいです!

佐野忠士先生

酪農学園大学 獣医学群 獣医学類 獣医麻酔学ユニット 准教授

小さい頃から生き物が大好きで、獣医師になる!という宣言を小学3年生の時にした時には両親はもちろん、親戚一同も「ただしなら・・・」と全員が納得! 獣医師になってからも動物好きは変わらず、どんどん深く深くの愛情へと・・・ 今は、縁の下の力持ち 的な 麻酔管理、疼痛(とうつう)管理、集中治療管理と人間の言葉を話せない動物たちの苦痛を取り除く分野の専門家として働けることを 誇りに思っています!